なぜアルミサッシが嫌か。
小学校か中学生か忘れたけど、両親と訪れた温泉宿。
鉄筋コンクリでできた何処にでもあるような、街中でも良く見かける、コンクリのひび割れから黒い汁がどぅあーって流れ出て筋が残っているあの、温泉宿。
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温泉に行こうよ、と言う提案があり、私は直ぐさまテンションが上がる。ホテルや旅館に泊まるのが大好きだった私は、宿の予約を自ら買って出て、旅行雑誌を開く。価格や部屋の様子を入念にチェックして、これだ!と見つけた、あのコンクリ温泉宿。家にあった旅行雑誌の中で紹介されていた、その部屋の写真は昔ながらのひなびた、和の風情の部屋だった。
よし。電話するか。
家族4人で、一部屋お願いいたします。的な事を言いつつ、無事抜かりなく予約完了。
温泉旅館の醍醐味は、当然温泉、それに食事、さらに私には外す事が出来ないのは、部屋の雰囲気である。温泉っつったら、和、である。温泉入った後に、はーあったまった〜っつって帰りつけるあの和の部屋。ふ〜たらふく食った〜、後は寝るだけ〜、の障子がよく合うあの和の部屋である。
当日、旅館に到着し、従業員から部屋の鍵をもらい、エレベーターで、今夜のうちら家族の安住の場所へ向かう。エレベーターが開く。割と上の階に、その部屋は位置していて、そうなると、そこから眺める景色も楽しみである。その宿はそんなに山深くないがとりあえず山の中にあり、木々の緑や、川のせせらぎなど部屋の窓から見える風景もその旅での大事な一部分だ。部屋に到着するまでの、想像をかきたてるワクワク感は今でも好きだ。
部屋の前に着いた。ドアを開ける。
あ、明るっ!
部屋に入り、私の目に飛び込んできたのは、陽の光を勢い良く吸収でもしているかの様にカーーーッと強烈に光る、アルミサッシの窓枠であった。あいつ、すげー光るんですよまじで。外の自然を写す透明なガラスよりも、その死ぬ程味気ない白い様な銀色なような縁取り。あの重みの無い、軽っかるなアルミサッシと日に焼けた畳。パサパサと白い光を投げかけるアルミサッシと丸く小さなちゃぶ台。天井からぶら下がっている昭和っぽい照明には蛍光灯。おそらく点けるともっと世界が味気なくなる。そして、アルミサッシ。アルミサッシ。アルミサッシ。。。
その、光景を目の当たりにした私の心は。
『ベラスケスによるインノケンティウス10世の肖像画後の習作』(1953年)
その当時、ベーコンなんて知らんかったけど、この絵がピッタリくる心持ちにさせたアルミサッシ。
もう、こんな、昔テレビでみた、パートのおばちゃんが休憩所で茶飲みながら、旦那の愚痴を話す場。みたいな場所で、貴重な旅の時間を過ごしたくない!と思った私は、フロントに直談判。雑誌で見たのと違うじゃないか!的に必死に訴える。
※イメージです。
話によると、最近当館をリニューアルしたので、ご案内したお部屋の方が新しいので。とのこと。その宿のご好意だったのだ。しかし私は、
え?
風情は?
旅の風情は??
そんな事を思いながら、粘ると、リニューアル前の部屋が下の階にあって、余り日当たりが良くないですが、それでも良ければお使いください。と、なんとなんとの、素敵対応。本当にありがとうございましたその当時は。わがままな奴で。へぇ。
案内された部屋は、やはり、そんなに陽が当たらないせいか、若干のかび臭さがあったけど、私のイメージしていた、”ひなびた感”は備わっていて、アルミサッシではあったけれども、最初の部屋に比べたら無味乾燥感は、弱まっていた。なんだろう、やっぱ明るければ良い訳じゃないのかな。
ここならば、まだ上の階よりはマシか。という事で、私達は、漸くその部屋に落ち着くことができて、温泉やら食事やらを満喫しました。たぶん。てか、もう、アルミサッシのせいでそこらへんの記憶が薄い。あと、うっすら覚えているのが、サッシはアルミサッシだったけど、窓の土台、フレーム?框(カマチ)?、の部分がその部屋は木製だった気がする。
何故、こんなにも私が窓枠に執着するのか。今まで深く考えてこなかった。しかし、今でもアルミサッシの窓枠を見ると、あの時の、白々しい銀色が主張してくる部屋、が脳裡に浮かんでくるぐらいの、トラウマ体験になったみたいです。日本の素晴らしい和の建築様式と、製造効率や安さのみで生まれたアルミ建具の無理やりなミスマッチは、こんな悲劇も生むんですね。
そして、それから、銀色アルミサッシのトラウマは色々な場面で私を悩ませる事になるのであった。
ちゃんちゃん。